化粧師
最終更新:2022/11/6
大正時代を舞台にした、化粧師(けわいし)を主人公とする映画。化粧師(けわいし)と呼ばれる今でいうメイクアップアーティストの主人公と、化粧をしてもらおうと訪れる人々が織りなす人間ドラマです。主演の椎名桔平さんが演じる小三馬は、無口で不愛想ながらも腕は一流。難しい役どころを本当に魅力的に演じていらっしゃると思います。一つ秘密を抱えているのですが、それを匂わせ過ぎず隠し過ぎず、という絶妙なバランスも小三馬の魅力に繋がっています。彼を取り巻く人間模様が静かに丁寧に描かれており、派手な描写は無いものの自然と惹き込まれる作品でした。また、大正時代という時代背景から、和と洋の折衷された映画美術が非常に美しく、それだけでも見る価値のあるものとなっているように思います。色遣いや雰囲気が大正ロマン好きにはたまらないものとなっていました。小三馬が女性たちに化粧を施すシーンはどこか官能的でありながらもいやらしさを感じさせず、むしろ厳かな空気感を纏ったものとなっており、ある種儀式のようにも感じられるものでした。化粧をしてほしいと訪れる人々は一癖も二癖もあるのですが、彼女たちが次の場所へと進むための通過儀礼としての役割が小三馬の化粧にはあるのでしょう。意味付けを鑑賞者に自然と伝えてくれる演出が秀逸です。語り手に近い役割を担う少女を菅野美穂さんが演じているのですが、彼女もまた役柄が内に秘めた心情を繊細に表現しており、心を揺さぶられました。創作物であるということを忘れてしまいそうなほど、役者、美術、映像、全体の調和がとれている映画だと思います。